小公女カイラ~裏生徒会物語~

1 プロローグ

「あなた、目障りなのよ。ねぇカイラ」

「う・・・うん。目障りだよね」

また始まった。

その場に居合わせたニコモたちは、皆思った。

大人数での撮影の度に繰り返されるこの光景。

かいあきが中心となって、毎回ターゲットを1人決め、徹底的に嫌がらせをするのだ。

運よくターゲットから外れた者たちは、内心、ほとっとしつつ、オモテ向き無関心を決め込む。

あとは、「どうか自分に火の粉が降って来ませんように」と祈りながら、”儀式”が終わるまで息をひそめて耐えるのだった。

「もう、あなたの居場所はないのだから、学業専念だとか体調不良だとか理由をつけて、ニコラを卒業したらどうかしら? ねぇカイラ」

「う・・・うん。卒業したほうがいいよ」

うつむく1人の少女の前に立ちはだかったカイラとアキ。

カイラは去年まで、メアリに次ぐ人気ナンバーツーの座にあった。それが05世代の卒業とともに、今年は圧倒的なナンバーワンとなり、その相方であるアキもまたしかり。

もはや今のニコラにおいて、かいあきに意見できる者は、先輩である高1モ含め誰ひとりとしていなくなっていた。

そして今日。ターゲットにされたのは

―――アヤカだった

2 因縁


アキ
 ねぇ

アヤカ なに?

アキ 屈辱? ニコプチ時代はトップモデルだったあなたが、ニコラに来てからというもの、鳴かず飛ばず。たいして撮影に呼ばれなくなり、今や各号の登場は小さいカットで1、2ページだけなんてざら。もう、メイクページくらいしか活躍の場がなくなったことに

アヤカ いいえ。これが、わたしのお仕事ですから

アキ へぇー、そうなんだ。ふふふ。

あたしより半年も後にプチモになったくせに、翌年春の「プチコレ∞」では同学年で唯一、オープニングムービーの選抜メンバーに選ばれた。

その後、あたしは呼ばれなかった8月号のハワイロケに、これまたあなたは選抜されると、そのまま一気に初表紙も経験する。

こうして、「07世代のエース」「10年に1人のプチモ」とまで言われた”あーちゃん”だけど、進級してみたら、ただニコモ。ううん、いまやただのニコモ以下ね

アヤカ ・・・

アキ うふふ。あたし、ニコラの編集さんから聞いたのよ。どうしてあなたが撮影に呼ばれなくなったのか、その理由をね

アヤカ えっ?

アキ あのね。ニコラってね、他誌同様に今とても厳しいんですって。セブンティーンですらあんなことになったんだから、ニコラだって、いくらティーン誌ナンバーワンといえども、例外じゃない。

じょじょに広告も減り、スポンサーも離れていってる。だいたい、いま毎月広告を出してくれるのって、もはや3大ブランドさんとロートさんくらいじゃないかしら。ワイモバさんや午後ティーさんは期間限定のスポットだし。

だからね、編集さんたちは某大手広告代理店と結託して、あたしたちニコモにまで、ステマまがいの怪しいインスタ商法を強要した。使ったこともない化粧水を、あたかも長年愛用してるかのように書いて投稿しろってね。まあ、さすがにあれは、ファンのコたちをダマしてるみたいで、・・・いや、実際だましてたんだけど、心苦しかったなぁ

他方、新垣結衣さんや川口春奈さん、能年玲奈さん、池田エライザさんといった一般応募のド素人を、イチから育て上げたことで知られる、ニコラ自慢の「モデル育成力」も、最近はすっかり劣化した

めっきり、オーデ出身のエースが育たなくなってきて、近年のトップモデルといえば、カノンちゃんにクロちゃん、まなちゃん、めあここ、そして、るきゆな。もはや完全に進級組ばかり

アヤカ まあ、たしかに

アキ そして去年。進級モとして、あなたとあたしが選ばれ、ニコラにやって来た。ニコプチオーデ出身の「正統派」のあなたと、プチコレ出身の「変人枠」としてのあたしが

アヤカ ・・・変人て

アキ だから当初、編集さんの期待は当然ながらあなただった。ううん、あなただけで、そもそもあたしなんて眼中になかったといってもいい。

ともかく、編集さんたちは、あなたを将来のエース候補にと考えた。実際、進級おひろめページも、あなたが1ページ目だったものね

アヤカ ・・・

アキ でも、その期待も長くは続かなかった。あなたが悪いのよ。そう、ユニット

アヤカ ユニット?

アキ ええ。ニコラで最も大事なことって何か? ニコモにとって1番必要とされるのは何か? それは、ユニットを組むことなの。ユニットこそ全て。とにかく、組んだもん勝ち

アヤカ でも、それって・・・

アキ うん、言いたいことはわかる。イキナリ進級して来て、パッと誰かと組めるのものなのか。すぐになじめるものなのか。でしょ?

アヤカ ハードル高いよね

アキ まあね。でも、そんなこと言ってたら、勝ち組になんてなれない。だからあたしはどうしたか。ええ、誰が見てもエースになるであろうカイラをムリヤリ奪った。ユズちゃんには悪かったけれど

でもほら、カイラってあたしと同じ事務所じゃない。だから裏でマネージャーさんに手を回し「2023年度のニコラの役職はうちの事務所で独占できますよ」って言ったの。そしたら、さっそくカイラに話をつけてくれて、かいあき結成~!

めあここが卒業した今、もはや、全然パッとしない高1モを超え、あたしたちこそがニコラのナンバーワンユニットなった

アヤカ それは否定しない

アキ とにかく、ユニットに積極的じゃないあなたを見限った編集部は、あたしに乗り換えた。あたしは、そのタイミングでかいあきを結成した。すべて計算通り、思い通りにコトは進んでいるのよ

アヤカ ・・・

アキ 要はね、ユニットを組まないニコモなんて、何の価値も無いの。ゴミ同然。だからね、今のあなたには1ミリの価値もないのよ。わかる?

アヤカ そ・・・そんな

アキ ま、みごと進級に落選した相棒のニジヒメとか―――

アヤカ ニジヒメじゃなくって、ココばい!

アヤカ あら、たしかそんな名前だったわね。そのココとか、まだ何も知らない25期オーデの新モちゃんたち、それに、一部の熱狂的なプチ時代からのファンたちには、まだまだあなたも人気あるみたいだけど。でも、そんなの、しょせん同情よね。違う?

(間)

アヤカ 確かに。・・・確かに、アキの言う通りかも知れません。わたしは、ユニットを組まなかった。だから、干されることになった。それは、否定できません

(間)

アヤカ でも、でもね。だからといって、ユニット組まないからといって、それでわたしの価値がなくなるとか、ニコモとしての存在意義が無いとか、そういうことはないと思うの

アキ バカバカしい。さっさと認めなさいよ! あなた自身になんて、もはやなんの価値もないのよ!! 分かった?

アヤカ いいえ、認めない!私は認めないわ!

(間)

アキ ふふふ。いいわ。認めさせてあげる。あなたなんて、なんの価値もないってことを、思い知らせてやるんだから。覚えてなさいよ

―――それから数日後

3 儀式

ニコラ編集部が入る新潮社本社ビルの某フロア。そこには、涙ぐみながら土下座するアヤカと、それを取り囲むニコモたちの姿があった。

「認めます。アキの言うとおりです。許してください。わたし・・・わたしは、なんの価値も魅力もないニコモです。許してください。わたしが間違ってました」

土下座するアヤカの前には、腰に手を当て、仁王立ちする格好で、アキがいた。

おおげさに、ため息をついてアキ

「はぁ・・・。やっと分かったの。あなた、相変わらず頭悪いわね。でも、謝っただけじゃ許さないわ。今までの偉そうな態度を反省してもらわないと。ついでに、あたしより先にニコプチで表紙をやったこと、ハワイロケに行ったことも反省してもらうわ。罰は・・・そうね。なんにしようかしら。うふふふ」

美人ぞろいのニコモの中でもひときわ美しいとされる、その整った綺麗な顔を、いじわるそうにゆがめ、満足そうに微笑むアキ。

そして、隣に控えるカホを振り返り、尋ねる。

「頼んでおいたもの、買って来てくれた?」

「うん、はいこれ」

カホ、重そうに両手で抱えた紙袋を差し出す。

すると、アキ、不機嫌になって。

「あたし、重いもの、持てないんだけど」

「ごめんね~、アキちゃん。ここ、置いとくね」

謝りつつ、アキの足元に紙袋を置くカホだった。

アキが袋を開けると、中には「完熟トマト3個パック」が10コほど入っている。

「全部で30個か、これなら十分ね」

今からちょっと前、編集部からほど近いところにあるスーパー「キッチンコート神楽坂店」に行って、ありったけのトマトを買ってくるよう、子飼いのカホに命令しておいたのだ。

「まあ、とても素敵なトマト。あたし、実はトマトが大好物なの。あたも、食べたいでしょ?」

そう言うとアキ、トマトを1つ手に取り、ひざまずくアヤカから離れるように、ゆっくりと歩いて行く。そして数メートル進んだところで、おもむろに振り返ると、トマトをアヤアに向けて、思いっきり投げつける。

<グチャ!>

トマトは、アヤカの右肩に当たってつぶれ、真っ赤な汁が、あたり一面に飛び散った。一瞬にして、部屋の一角が、まるで殺人事件の現場ような光景に変わる。

「キャ」

誰かが小さく叫ぶ。

アキのあまりの仕打ちに、これまでの2人にやりとりを遠巻きに眺めていた他のニコモたちは、いっせいに目をそむける。

「うふふ。トマトって美容にいいんですってよ」

アキは他のニコモたちの反応すらも楽しんでいるようだ。

だがここで、たまらずカイラが割って入る。

アキの手を引っぱって。

「アキ、さすがにやり過ぎだよ。もうこれくらいでいいじゃん」

控えめにたしなめる。

しかし、アキは全く気にするそぶりも見せず、カイラの手を振り払って。

「さぁ。みなさんも、お1つずつどうぞ」

にこやかに、満面の笑みでカイラ以外のニコモたちを一通り見渡した後、床に置かれた残りのトマトを指差す。

「・・・」

しかし、誰も返事をしない。

ためらうにニコモたちに、ややいらだった様子でアキが続ける。

「さあ、遠慮なさらずに」

ここでもし、アキの命令に従わなかったら、次は自分がイジメの標的になるかもしれない。この場に居合わせたニコモたちは、誰もがそう思った。

とはいえ、自分から進んで前に出ようとする者はいない。

「(小声で)どうしましょう。どうしましょう」

ニコモ唯一の小学生で、もめごとや争い事が大嫌い。

おとなしくて心優しいシャノンが、体育座りしながら、まるで自身の愛犬ツムギのように小さく震えている。

一方、その他の新モたちは戸惑ったように、一斉に副会長であるユナのほうをチラっと見る。会長が不在である今、ここはユナちゃんが何とかしてくれるかもしれないという期待を込めた眼差しで。

しかし、残念ながら”美白のお姫様”は、3DSにお取込み中。

それどころではないのであった。

4 幕間~アンジのモノローグもしくは的確な品定め~

「さぁ。みなさんも、お1つずつどうぞ」

アキちゃんが静かに威圧するように私たちを見渡してる。・・・怖っ! ツリ目怖っ!

でも本来、真っ先に仲裁にあたるべき生徒会長ルキちゃんは、この場にいない。

なぜなら、コトが起こるや否や

「わたし、オトナを呼んでくるね!」

と言い残し、笑顔で出ていった。

おいおい、なんでこんな時に笑顔なんだ!

ついでに。

「みんなはここで待っててね」

と付け加えて。

要は、誰も自分に着いて来ないよう、念を押したのだ。

そして彼女は、もうあれから10分もたつけれど、一向に戻ってくる気配はない。当然、オトナもやって来ない。

そう、逃げたのだ。

自分で止めればいいじゃないか。あんた生徒会長だろ!

心の中で呟いてみても、むなしいだけ。

外面(そとづら)と、要領だけはいい彼女に、大人も読者もみんなみんな騙されてるのだ。

・・・何が「ヤル気!ゲン気!」だ、この役立たず。

はぁ、

アンジはため息をついた。

(間)

うん、やっぱりこんな時、頼れるのはワカナちゃんしかいない!

思い立つや、こんどは事務所の先輩であるワカナの姿を目で探す。

が、こちらも姿が無い。

オトナっぽさ&美しさナンバーワン。それでいて、親しみやすくて優しくて、正義感も強く、曲がったことが大嫌い。

小6合格でニコモ歴も長く、なによりオーデ出身の正統派。

アンジがニコモで唯一、尊敬する憧れの存在だ。

そんな彼女は、「私の卒業」プロジェクトをきっかけに、世間に”見つかった”今、ニコラ以外のお仕事でとても忙しい。

あれは去年の終わり。

ネットニュースで一斉に

「宮本和奏15歳“ニコモ”若手発掘育成プロジェクトに選出 」

と取り上げられた。

って一瞬、ニコモの新人を発掘するオーデかよ!って思える下手な記事タイトルはさておき、とにかくワカナちゃんが、なんちゃら宣伝部やフォロワー50万のインフルエンサーたちを抑えて、トップ扱いだ。素直にすごい。いや、レプロがすごいのか。だいたい記事の引用元はレプロのプレスリリースだし。

とにかく、女優の卵として、ワークショップや各地でのイベント、そして最終的には短編映画の撮影まで、忙しそうに全国を駆け回っている。

あー、そういえば。

今日の撮影も、『女優プロジェクト組のワカナとユズは欠席』って、編集部LINEにあったのを思い出した

ともかく、アキちゃんを止められるのはワカナちゃんしかいない。ワカナちゃん、早く戻って来てぇ~。

(間)

はぁ。

アンジの口から2度目のため息が漏れる。

ワカナちゃんと比べ、同じ女優の卵でも、この人は・・・ダメだ。

ここでアンジ、部屋の片隅で何やらぶつぶつ呟いているリミに視線を移す。

「あ・え・い・う・え・お・あ・お」

こんな状況の下、のんきに発声練習に勤しむ彼女をまじまじと見つめつつ。

「か・け・き・く・け・こ・か・こ」

自称女優。今日も、相変わらずニコラの現場に、ドラマだか、なんかの台本を持ち込んでいる。

「あめんぼあかいな・あいうえお」

最近は、彼女の姿をテレビで目する機会は、すっかり減った。

たまに出てても、それは「主人公の同級生の中学時代の友達の友達の友達役」だのなんだの、やたら「の」の多い、要は端役だ。

「うきもにこえびも・およいでる」

とにかく、そんな彼女が毎々毎回、ニコラの撮影現場に、これ見よがしに台本を持ちこんで来る。

でも、もちろんみんな知っている。新しいドラマのお仕事なんて決まってないことを。

それが証拠に、台本を手にしてるのに、やっているのは発声練習ではないか。

この人も、役に立たない。(後に、この時リミが手にしていた台本はホンモノで、『マイファミリー』のものだったことが判明する)

(間)

続いてアンジ、発声練習の声と対角線上にいる2人を見る。部屋の角にひっそり固まっているはミナミとセナ。

えっ? 最年長であるのに端っこにいるのはなぜかって? そう、2人は、人見知り&ヲタとして知られる根暗コンビなのだ。

とにかく、2人の周囲だけ雰囲気がどんより暗い。例によってこの状況にどう対応したらいいか分からず、下を向いて自分の殻に閉じこもっているようだ。

はぁ。そんなだから、ニコモ歴だけはやたら長いのに、役職にもイメモにもなれないのよ。

3度目のため息。この人らもダメだ。

(間)

するとことで、聞きなれない電子音が耳に飛び込んでくる。

《♪♪ピコピコ》

さらに視線を移すと、そこには、この場の険悪な雰囲気に我関せず。ひとり、淡々と携帯ゲーム機に熱中するユナがいた

はぁ。

何度目かのため息。あの人もダメだ。

そう、今年の高1モは、ワカナちゃんを除き、どいつもこいつも役に立たないのである。

ワカナちゃん、早く戻って来て~。

もう一度、心の中で叫ぶアンジだった。

5 再び儀式

「じゃあ、次はカイラやりなよ」

カイラの手に、無理矢理トマトを握らせようとするアキ。

「あ、いや、えっと、私は・・・」

すると、口ごもるカイラを横目に、場の空気を読むのに長けたカホが、一歩前に進み出た

「わたしがやるね」

そもそもカホは、アキとは同学年の上、ニコモ歴では先輩に当たる。なにより、自粛期間中に投稿したインスタの写真が「奇跡の1枚」として評判になり、”ニコラの橋本環奈”と、もてはやされた時期もあったくらいだ。

にもかかわらず、ニコ読の間で沸き起こった「加工・無加工論争」を経て失速。今やすっかり”かいあき”のパシリに成り下がっている

(アヤカちゃん、ゴメン)

カホ、アヤカに心の中で謝罪しつつ、表面上は楽しんでいる風を装い、トマトを投げつける

<グシャ>

「私も・・・」

続いて、カホの相方で、子役として、また声優として、年少のころから芸能界で活躍する、世渡り上手のユラも、これに加わる。

「えいッ!」

<グシャ>

さらには、やや戸惑いつつも、とにかく自分がターゲットになることだけは避けたいアリサも前に進み出て、トマトを手に取り、投げつける。野球部マネージャーだけあって、キレイなオーバースロー投法だ。

<グシャ>

と、ここで。

それまで、ニコモたちの輪から離れ、興味なさそうに遠目にコトの成り行きを見守っていた、ミアンが動く。

「Porqueria」

ハーフの美人で、見た目も考え方も大人。自分の意見をしっかり持ち、みんなに流されたり、他人の顔色をうかがったりすることが大嫌いな彼女は、あきれたようにスペイン語で「くだらない」と呟くと、ひとりその場を後にする。

しかしその間も、”トマト投げの儀式”は、つつがなく進行する。

<グシャッ>

「キャッ」

<グシャッ>

「痛っ」

<グシャ>

「あいたーし!」(熊本弁で「痛い」)

こうして、部屋の隅っこでひとり震えているシャノンを残し、その場にいた全員が投げ終えた。

全身、真っ赤にトマトまみれとなり、低く嗚咽をもらすアヤカと、それを勝ち誇ったように見下ろすアキ。

そして、いよいよアキがシャノンに視線を移して。

「あれれ? シャノンちゃんは起きてるかな?」

「(小声で)どうしましょう。どうしましょう」

シャノンは、この悪夢のような現場から、いっこくも早く逃げ出したいと先ほどからタイミングをうかがっていたが、ついにアキに迫られてしまい、心底、困り顔になった。

「あとはシャノンちゃんだけだよね? さあ」

もう1度、アキは笑顔で言うと、無理やり、シャノンの手にトマトを握らせようとする。

「どうそ」

「(小声で)ごめんなさい、ごめんなさい」

なおもためらうシャノン。

すると、ここでアキは、シャノンの耳元でささやくように。

「じゃあ、あなたが身代わりになる?」

「そ・・・それは・・・」

するとここで、シャノンの保護者を気取るアリサがシャシャリ出て、シャノンのわき腹を肘で突っつきながらささやく

「(小声で)ほら、狙いは内角低め」

部活で使う愛用の「投手用9分割スコアブック」を示しながら、よくわからないアドバイスをする。

なんとアリサは、これまで全てのニコモによる”トマト配球”を、スコアブックに記録していたのだ。

「さすがは野球部マネージャー」

だれからともなく、感嘆とも嘲笑ともとれる声が上がる。

一瞬、あまりの茶番にあっけに取られていたアキであるが、すぐに我に返って。

「邪魔よ、あなた」

アキは、アリサを押しのけると、優しくシャノンの手を取り、そっとトマトを握らせる。

「ふふふ。さあどうぞ」

長い時間迷った末、シャノン。ついに意を決したように、目をつむってトマトを投げる。

華奢な女の子に見えて、特技は鉄棒。腕力はめっぽう強いので、かなりの速球だ。

<グシャ>

こうして、最後のトマトがつぶれた。

しかし、そのトマトは、アヤカではなく、ココの背中に当たった。今しがた、エレベーターから降り立ったココが、そのままパッと飛び出すと、アヤカをかばうように抱きしめ、背中でトマトを受け止めたのだった。

「わっ!ニコプチ卒モの井口さんだ!」

誰かが、驚いたように声を上げた。

「だ・・・ダレ!?」

だが、大方のニコモにとっては、知らないコ。一様に、?マークが浮かぶ。

「ちょ、ちょっと、なにすんの。いったいどういうつもりで、ってか、なんであんたがここにいんのよ!」

ココの意外な登場に、アヤカはパッと顔を輝かせ、対照的にアキは、後ろめたさと戸惑いを隠せない。言葉遣いまで粗っぽくなった。

すると次の瞬間、ココから遅れて、ワカナもやって来た。

「アキちゃん、いいかげんにしなよ!」

そのままワカナ、まっすぐ視線をアキに向けて、キッパリと言い放つ。

「ワカナちゃんだ!」

内心、ずっと待ち焦がれていたアンジがうれしそうに叫ぶ。

「ワカナちゃん、カッコい~」

「ワカナちゃん、美人~」

「ワカナ、待ってたよ~」

なんといってもオーデ組のエース。後輩たちからはもちろん、同学年からの信頼も絶大である。

「チッ」

思わぬ援軍の登場で、完全に形勢逆転。もはやアキは、すっかりしゅんとして小さくなってしまった。

実は、先ほど退出して行ったミアンが、ワカナに状況を知らせるため、例の女優プロジェクトで募集していた、極めて胡散臭い「弁当クラウドファンディング」なるものを1口購入し、その特典を利用して、現場にメッセージを送ったのだった。

『アキ ボウソウ ヘンシュブニ スグカエレ byミアン』

そして、現場でこのメッセージを見たワカナは、ワークショップが終わると、取るものも取りあえず帰って来たというわけだ。

一方、ココはといえば、たまたま古巣のニコプチ編集部に遊びに来ていところを、ミアンたちに捕まり、合流したという。

「泣かないで、あーちゃん」

ココ、自分の上着を、アヤカの肩にかけてあげると、その手を取って、そっと立たせる。

「今日は、帰ろっか」

ココに支えられて立ち上がったアヤカ。無言でうなずく。そして、ココにだけ聞こえるように、ささやいた。

「ありがと」

こうして2人は、編集部を後にした。

《おしまい》

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