I アンナの友達はカエルだけ
青井 ねぇ
白井 はい
青井 屈辱? あなた、最近はすっかりファッションページに呼ばれなくなって、もはや、オーデ応援隊長だの作詞だのMV監督だのニコ学の原作だのといった裏方的なお仕事くらいしか、活躍の場がなくなったことに
白井 いいえ。これが、わたしの仕事ですから
青井 へぇー、そうなんだ。小6でニコモになって、新モ特集ではセンター。中2でハワイロケに選抜されると、直後にレピピブックに呼ばれた上、初表紙が20周年記念号だったりで、早くから「将来の生徒会長&イメモは確定!」とまで言われた”あんちゃん”も、今やただニコモ。ううん、ただのニコモ以下ね
白井 ・・・
青井 ふふふ。ノノね、編集長から聞いたのよ。どうしてあなたがイメモから落選したのか。そして、どうして何の役職にすら就けなかったのかを
白井 えっ?
青井 あのね。ニコラってね、実は今、ちょっと苦しいんですって。どこの雑誌も、ネットに押されてきてる上、消費税の軽減税率の対象からも外されたことで、売上は落ちてきてる。ティーン誌ナンバーワンといえども、例外じゃない。じょじょに広告も減り、スポンサーも離れていってる
自慢のモデル育成力でみても、ニコモオーデ出身のエースが育ちにくくなってきていて、最近はすっかりニコプチ進級組に頼りっきりの現状だし
と、そこへ。彗星のようにあなたが現れた。オーデ小6合格の正統派。とにかく可愛くって、親しみやすくって、ファッションセンスも抜群。初登場から、イキナリ高い読者人気を獲得した、あなたが
白井 でへへへ(照)
青井 だから、当然ながら編集部は、そんなあなたを将来のエース候補にと考えた。具体的には、だいぶ前から生徒会長+ピンクラテイメモの兼任を想定していたみたい。そう、中3の秋ころまでは
白井 ・・・
青井 でもダメだった。あなたがすべてをぶち壊したの。あれは、2018年12月号「マフラーカタログ」の撮影。その際、あなたのあまりの体型の変化に、いや、ズバリ言っちゃうと脚の太さに驚いたカメラマンさんと編集部は、言葉を失った。そして、すぐに対策を考えた。
白井 でも、それは・・・
青井 うん、言いたいことはわかる。その時、隣に並んだのが、ニコモで1番華奢&小柄なナナちゃんだったからとか言うんでしょ。でも、そんなの言い訳にならない
白井 ・・・
青井 とにかく、そんなあなたの体型の変化に危機感を抱いた編集部は、手始めに次の表紙を差し替えた。本来、2019年1月号は、あなたとサラちゃんの「さらんな表紙」が予定されてたんだけど、サラちゃんはそのままに、あなただけを降ろしたの。まあ、あの時は急遽、代役としてノノに表紙が回ってきたのはラッキーだったけど
白井 ・・・
青井 続いて編集部は、あなたの事務所に相談した。相談というより、むしろ警告かな。とにかくその後、事務所に呼び出されたあなたは、マネージャーさんからキツく注意されたはずよね
白井 ・・・
青井 それでも努力を怠り、ついに体型は戻らなかった。そこで、しびれを切らした編集部は、最終手段に打って出る。そう、3カ月の集中連載としての「崖っぷちダイエット企画」のことね。編集部は、けっきょく最後は全てをあなたに委ねることにしたのよ
白井 ・・・
青井 成功すれば、事前の青写真通り、イメモ&生徒会長のダブル。失敗したら・・・
白井 ・・・
青井 そしてあなたは、みごとに失敗した。編集部から最後のチャンスを与えてもらったにも関わらず。ファンのみんながSNS上で「#がんばれあんちゃん」の公式ハッシュタグで応援してくれたにも関わらず
白井 ・・・
青井 だからね。イメモにもなれず、生徒会の役職からも干されちゃった今、もうあなたには何の価値もないのよ。わかる?
白井 そ・・・そんな
青井 ま、相棒のサキとか、おバカさんのワカナ、事務所の後輩かとぅ。それに、何も知らない今年のオーデ新モちゃんや、一部の熱狂的なニコ読ちゃんたちからには、まだまだあなたも人気あるみたいだけど。でも、そんなの、しょせん同情よね。違う?
(間)
白井 確かに。・・・確かに、ノノちゃん言う通りかも知れません。わたしは、ダイエットに失敗した。だから、干されることになった。それは、否定できません
(間)
白井 でも、でもね。だからといって、イメモになれなかったからといって、それでわたしの価値がなくなるとか、ニコモとしての存在意義が無いとか、そういうことはないと思うの
青井 バカバカしい。さっさと認めなさいよ! あなた自身になんて、もはやなんの価値もないのよ!!分かった?
白井 いいえ、認めない!私は認めないわ!
(間)
青井 ふふふ。いいわ。認めさせてあげる。あなたなんて、なんの価値もないってことを、思い知らせてやるんだから。覚えてなさいよ
―――そして数日後
II トマトの儀式
ニコラ編集部が入る新潮社本社ビルの某フロア。そこには、廊下で涙ぐみながら土下座する杏奈と、それを取り囲むニコモたちの姿があった
「認めます。ノノちゃんの言うとおりです。許してください。わたし・・・わたしは、なんの価値も魅力もないニコモです。許してください。わたしが間違ってました」
土下座するアンナの前には、腰に手を当て、仁王立ちする格好で、乃乃がいた
おおげさに、ため息をついて乃乃
「はぁ・・・。やっと分かったの。あなた、相変わらず頭悪いわね。でも、謝っただけじゃ許さないわ。今までの偉そうな態度を反省してもらわないと。罰は・・・そうね。なんにしようかしら。うふふふ」
ニコモで最も美しいとされる、その整った綺麗なお顔を、いじわるそうにゆがめ、満足そうに微笑む
そのまま、足もとに投げ出されたアンナ愛用ニコロンのショルダーを勝手に開けると、中から「完熟トマト10個入りパック」を取り出す
「あら~、素敵なトマト。そういえばあなた、トマトが大好物なんですってね。美容と健康のため、毎朝1コを丸かじりしてるとか。新モ特集のどこかのページに載ってたっけ」
「えっ、何を?」
すると乃乃、トマトを1つ手に取ると、そのまま杏奈から離れるように、ゆっくりと廊下を歩いて行く。そして数メートル進んだところで、おもむろに振り返ると、トマトを杏奈に向けて、思いっきり投げつける
<グチャ!>
トマトは、杏奈の右肩に当たってつぶれ、真っ赤な汁が、あたり一面に飛び散った。一瞬にして、廊下の一角が、まるで血の海ような光景に変わる
「キャ」
誰かが小さく叫ぶ
乃乃のあまりの仕打ちに、これまでの2人にやりとりを遠巻きに眺めていた他のニコモたちは、いっせいに目をそむける。しかし、乃乃は全く気にするそぶりも見せず
「さぁ。みなさんも、お1つずつ、どうぞ」
にこやかに、満面の笑みで、床に置かれた残りのトマトを指差す
「・・・」
しかし、誰も返事をしない。すると、ためらうにニコモたちに、乃乃、ややいらだった様子で
「さあ、遠慮なさらずどうぞ」
ここでもし、乃乃の命令に従わなかったら、次は自分がイジメの標的になるかもしれない。この場に居合わせたニコモたちは、誰もがそう思った
とはいえ、自分から進んで前に出ようとする者はいない
「(小声で)どうしましょう。どうしましょう」
もめごとや争い事が大嫌いな凛が、小声でつぶやきながら震えている
一方、新モたちは、一斉に生徒会長のほうをチラっと見る。ここは莉那が何とかしてくれるかもしれないという期待を込めた眼差しで
しかし、莉那が行動を起こす気配はみじんもない。さきほどから、ずっとうつむいたままである
実際、生徒会長とは名ばかり。そもそも進級組で、まだニコモ歴2年ちょっとに過ぎないリナには、何の力も人望もなく、当然、乃乃を止めることなんてできない
TRGLが卒業した現在のニコラにおいて、TNM優勝者である乃乃の権力は、誰にも脅かすことができないほどに絶大となっていたのだ
「カノン、やりま~す♪」
ややあって、場の空気を読むのに長けた花音が、努めて明るく宣言しつつ、一歩前に進み出た
(アンナ先輩、ゴメンなさい)
花音は内心、杏奈に謝罪しつつも、表面上は楽しんでいる風を装い、トマトを投げつける
<グシャ>
「私も・・・」
続いて、やや戸惑いつつも、乃乃と同じ事務所の後輩である星奈が前に進み出て、トマトを手に取り、その長身から投げ下ろす
「えいッ!」
<グシャ>
さらには、子役として、またプチモとして、年少のころから芸能界で活躍する、世渡り上手のここはも、これに加わる
<グシャ>
と、次の瞬間。
これまで、ニコモたちの輪から離れ、興味なさそうに遠目にコトの成り行きを見守っていた、帰国子女のあむ
「なにこれ、くだない」
もともと、みんなに意見を合わせたり、他人の顔色をうかがったりすることが嫌いなあむは、あきれたように、ひとりその場を後にする
しかしその間も、”トマト投げの儀式”は、つつがなく進行する
<グシャッ>
「キャッ」
<グシャッ>
「痛っ」
<グシャ>
「・・・」
そして、乃乃が未来実の前に立つ
「次は、くるみんだね」
乃乃にとって、同じ大阪出身の未来実は妹のような存在で、撮影が一緒のときはいつも一緒に帰るる間柄。しかし、そんな未来実は、なかなかトマトを手にしない
そこで乃乃は、わざわざパックからトマトを取り出し、そのまま未来実に差し出す
「うちも、やらなあかんか?」
戸惑いつつ、明らかに気が進まない未来実。なかなかトマトを受け取らない
これに対し、乃乃は無言でうなずくと、有無を言わせぬ勢いで、トマトを未来実の手に押し付ける
「かんにんな」
<グシャ>
こうして、凛と和奏の2人以外、その場にいた全員が投げ終えた
全身、真っ赤にトマトまみれとなり、低く嗚咽をもらす杏奈と、それを勝ち誇ったように見下ろす乃乃
ふと、乃乃が視線を移して
「さあ。リンちゃんも」
「(小声で)どうしましょう。どうしましょう」
凛は、この悪夢のような現場から、いっこくも早く逃げ出したいと、さきほどからタイミングを見計らっていたところ、ついに乃乃に迫られてしまい、心底、困り顔になった
「さあ」
もう1度、乃乃は笑顔で言うと、無理やり、凛の手にトマトを握らせる
「どうそ」
「(小声で)ごめんなさい、ごめんなさい」
なおもためらう凛
すると、ここで乃乃は、凛の耳元でささやくように
「TNM2回戦のアスレチック対決。あなたのトランポリンの失敗のおかげで、うちらのチームが負けこと、忘れたわけじゃないでしょうね?」
ついに観念したように立ち上がる凛
「え~い」
<グシャッ>
へろへろな凛の投球であったが、それでもなんとか届いて、杏奈の右足を真っ赤に染めた
これで、まだ投げていないのは、ついに最後の1人、和奏だけとなる。廊下の隅っこで、膝を抱え、体育座りの格好でうつむいている
「あれれ? どうしたのかな、ワカナちゃん」
和奏は、怖くて顔を上げることができない
「えっと、ワカナちゃんは、たしか、まだだよね?」
言葉は自体は優しいが、その裏には有無をわせぬ迫力がある。これに、和奏。ついに耐えられなくなって、泣き出してしまう。見た目は大人でも、中身は完全におこちゃまなのである
「ひぃ~~~。ワカナにとって、アンナちゃんは、憧れのニコモなんですぅ。だから、だから、そんなこと、ワカナにはできません!」
実際、和奏はオーディション以来、ことあるごとに「憧れのニコモモはアンナちゃん!」と公言するほどの、杏奈ファンなのである
和奏がオーデ合格の事務所面接で、真っ先にレプロを希望したのも、もちろん杏奈が所属しているからであった
また、事務所のイベント「レプティーンフェス2019」の出演権をかけた公式人気投票においても、自身がエントリーしているにも関わらず、本来はライバルである杏奈に投票していたことで話題になったように、とにかく杏奈のことが大好きなのだ
しかし、そんな和奏の気持ちなど意に介さず乃乃。さらに、脅迫を続ける
「いい? 前も言ったでしょ。分かってるわよね。あなたの大好きな”あんちゃん”が、いなくなっちゃってもいいの? 二度と会えなくなっちゃうのよ。それでホントにいいの?」
「そ・・・それは・・・」
そんな和奏に追い打ちをかけるように、相方の星奈も、和奏のわき腹を肘で突っつきながらささやく
「(小声で)ほら、ここは黙って従っとくべきっしょ」
すると乃乃は、優しく和奏の手を取り、そっとトマトを握らせる
「ふふふ。さあどうぞ」
長い時間迷った末、和奏。ついに意を決したように、目をつむってトマトを投げる
<グシャ>
最後のトマトがつぶれた
しかし、そのトマトは、杏奈ではなく、沙良の背中に当たった。今しがた、エレベーターから降り立ったところの沙良が、そのままパッと飛び出し、杏奈をかばうように抱きしめ、背中でトマトを受けたのだった
「女優のサラちゃんだ!」
ニコモの誰かが、驚いたように声を上げた
「ちょ、ちょっと、なにするんですか。いったいどういうつもりで、っていうか、なんでここにいるんですか?」
卒モ沙良の意外な登場に、杏奈はパッと顔を輝かせ、対照的に乃乃は、後ろめたさと戸惑いを隠せない
「ノノ、いいかげんにしなよ!」
沙良、まっすぐ視線を乃乃に向けて、キッパリと言い放つ。主演映画多数、2018年には複数の新人賞を受賞した、女優系ニコモナンバーワンの大物で、もちろん後輩たちからの信頼も絶大である
「サラちゃん、カッコい~」
「サラちゃん、美人☆」
ニコモたちから、次々と賞賛の声が上がる
「ね。もう、これくらいで」
思わぬ沙良の登場で、完全に形勢逆転。もはや乃乃は、すっかりしゅんとして小さくなってしまった
そして、いつの間にか、杏奈のもとには、もうひとり駆けつけた咲綺の姿があった
実は、先ほど退出して行ったあむが、杏奈と仲良である沙良と咲綺に、LINEで状況を知らせ、2人を呼び出したのだ
「泣かないで、アンナ」
咲綺は、自分の上着を、杏奈の肩にかけてあげると、その手を取って、そっと立たせる
沙良も駆け寄って
「アンナ、行こうか」
2人に両脇から支えられて歩く杏奈。無言でうなずく。そして、2人にだけ聞こえるように、ささやいた
「サラちゃん、サキちゃん、ありがと」
こうして3人は、編集部を後にしたのだった
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