なななん先パイ愛の劇場



それは、ニコラ6月号「春くつ&足元 Step UP!」の撮影が終った後。

優奈は、一緒に撮影していた先輩ニコモの奈菜から誘われた。

「優奈ちゃん、これから暇?」

「え…。あ、はい」

「じゃあ、一緒にごはんでも行こっか」

「はい♪」

奈菜といえば、熱心なニコ読出身。自身が読者だったことからもファンの気持ちが人一倍よくわかり、ニコモで最も読者想いなことでも有名である。

また、持ち前の高い女子力に加え、世話好きな性格から、後輩ニコモたちからも特に慕われている。

そんな憧れの先輩から誘われたことが、とにかくうれしくてたまらない優奈であった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

こうして、他のニコモとの別れの挨拶もそこそこに、2人はニコラ編集部の入る新潮社ビルから程近い、ニコモ行きつけのファミレス「ガスト神楽坂店」に連れだってやって来た。

窓側のテーブル席に案内され、向かい合って座ったところで、さっそく奈菜が切り出す。

「わぁ~。優奈ちゃんのほっぺたって、なんでこんなにやわらかいの~?」

そう言いいながら奈菜。テーブル越しに手を伸ばすと、おもむろに優奈の頬をなでたり、つまんだり、引っ張ったりと弄び始める。

<グイグイグイ>

そんな先輩の行為に優奈、若干引きつつ、ちょっと困った表情で。

「あ・・・あの。そうだ! 私、お料理注文してもいいですか?」

奈菜の手を、失礼にならない程度に優しく振りほどいた優奈は、そのまま注文用のタブレットを手に取った。

すると奈菜。

お互い座ったままでも、その身長差から明らかに高い位置にある優奈の顔を、上目遣いに見上げつつ、いつもとは違った声色で。

「ええ、いいわよ。優奈ちゃん、なんでも注文なさい。もちろん、お姉さんの、お・ご・り・よ」

口調まで変わった。

ただし、ニコラ誌面でおなじみ。パッと輝くような愛らしい笑顔はそのままに。

「あ、はい。え~っと、じゃ、私、オムライスビーフシチューソースにしようかな…」

と、優奈が言いかけたところで、それをさえぎるように。

「もちろん、私の手作りのチョコレートクッキーも、食べるわよね?」

「へっ!?」

奈菜からの、思いがけない申し出に、おどろく優奈。

「あのね、優奈ちゃん。私、あなたのために早起きして、撮影に来る前に焼いてきたのよ」

ここで奈菜。

おばあちゃんからオーデの合格祝いにもらった自慢のジルスチュアートのショルダーを開けると、手作りらしきクッキーがギッシリ詰め込まれた、大きな大きな水色のタッパーを取り出し、ドカンとテーブルに置く。

「あ、あの~。私、あんまり甘いものは…」(ってか、ファミレスって持ち込み禁止じゃ?)

と、小声で優奈。

基本、甘いものがニガテなのである。

しかし、そんな優奈に対し、普段の撮影のときには見せたことのないような押しの強さで奈菜。

「た・べ・る・わ・よ・ね?」

「は・・・はい」

奈菜の剣幕におびえつつ、仕方ないのでここは先輩を立て、うつむいたまま小さく返事をする。

しかし、それでだけでは終わらない。

「じゃあ、優奈ちゃん。私に『食べさせてください』 ってお願いしてみて。そしたら、お姉さんが食べさせて、あ・げ・る」

ふと顔をあげると、正面に座っていたはずの奈菜が、いつのまにか真横に移って来ていた。

これに優奈、一瞬ビクッとしつつ、ためらいながらもやがて意を決して。

「た・・・食べさせてください」

優奈の口から出た声は、すでにぴったり身体が密着している奈菜にすら聞き取れないほど、それはそれは小さなものだった。

もちろん、奈菜は不満である。

「なに? 聞こえない」

奈菜、大仰に耳に手を当てつつ、やり直しを命じる。

「た…食べさせてください!」

こんどは、そこそこ大きな声が出た。

近くの席のカップルが、何事かとこちらを振り向くが、そんなことはお構いなしの奈菜。

ようやく満足そうに微笑んで。

「ふふふ。いいコね」

優奈の頭を優しくなでつつ。

「それじゃあ、約束どおり、お姉さんが食べさせてあげる。でも、その代わり、全部食べ終わるまで、帰さないから。いい?」

続けて。

「もし残したら、おしおきよ」

そう言うと、奈菜。

タッパーから、とりあえずクッキーを1つつまんで取り出すと、ゆっくりと優奈の口の前に差し出す。

「さあ。あ~ん」

もう、こうなっては食べるしかない。

仕方なく、ニコラの「顔面測定企画」でも、比較的小さなほうだった口を、さらに小さく開いて待つ。

「もっと大きく!」

すぐに、奈菜から鋭い叱責が飛んだ。

そこで優奈。

「ぁ~」

やや大きく開くも。

「ほら、もっと!」

「あ~」

「もっともっと!!!」

「あ゛~」

≪パクッ≫

「どう? おいしい?」

「≪もぐもぐ≫ お・・・・おいひぃです ≪もぐもぐ≫ 」

「そう、よかった。うれしいわ。うふふ」

「≪もぐもぐ≫ 」

こうして、タッパー1箱分のクッキーを、あくまで表面上おいしそうに食べ続ける優奈の姿を、幸せそうに見つめる奈菜先輩であった。

《終劇》

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ニコモ物語「なななんパイセン愛の劇場」