![]()
◆ルキの回想
それは8月23日、セブンティーン夏の学園祭2023が行われた日の夜。
私はゆななと一緒に、編集部が地方組のために用意した東京ドームホテルの最上階に入るレストラン「アーティスト カフェ」で夕食をとり、その後、彼女の部屋で話していたときの出来ごとでした。
ふいにゆななは、
「ねぇねぇ、るきぃ~。ゆなね、これからしばらくの間、眠るね」
と言いました。
今思えば、それは彼女なりのシグナルだったわけですが、そのときの私は、全く気づくことができませんでした。
まだ午後9時前だったけれど、ゆななはいつもボーっとしていて、常に眠そうにしてるし、実際、ニコラの撮影では、空き時間はもちろん、移動のロケバスでも、お昼の休憩時間でも、とにかく時間さえあればうたた寝している彼女を知っている私にとって、特段気に留めるようなことではなかったのです。
そこで私たちは話を切り上げ、ごく自然な感じで「おやすみ」と言葉を交わすと、そのままゆななは自分のベッドに入り、たちまちすやすやと寝息を立て始めました。
そしてそれ以来。
1度たりとも目を覚ますことなく、ゆななはずっとずっと、今も眠り続けているのです。
◆ゆななの福岡の実家
あれから4カ月たった12月24日の深夜。
福岡の実家のゆななの部屋。
そこには、あの後ホテルから搬送され、実家に引き取られたゆななが、今も眠り続けている。
時間は午前2時を過ぎたあたり。窓の外では雪が舞っている。
部屋の中央にあるピンクの天蓋つきのベッドでは、穏やかにゆななが寝息を立てている。
と、そこへルキが入ってくる。
ゆななを起こさぬよう、静かにドアを開け、そっと中に入ると、静かにドアを閉める。
「はぁ(ため息)。相変わらず、どこか裕福な国のお姫様みたいなお部屋。ベッドで眠っているのは、さながら白雪姫か。何度来ても私は場違いな気がする」
努めて明るくひとりごちてみたものの、この部屋の冴え冴えする空気は、ルキをいくぶん緊張させる。
そしていつものように、ルキは、ドアに鍵をかけると、ゆななの部屋の中を用心深く見わたした。
やがて、なんら変わらぬいつものゆななの部屋であることを確認したところで、ほっと息をつき、それまでの緊張を解くと、ゆななの眠るベッドの側まで、ゆっくりと歩み寄る。
熟睡しているゆななの顔を、真上から見下ろすルキ。
静かに右手を伸ばし、ゆななの頬にそっと触れると、小さな声で名前を呼んでみる。
「ユナ」
「ゆなな」というのは、あくまでニコラ編集部が勝手に付けた愛称である。プチ時代からの付き合いであるルキにとって、最初から「ユナ」は「ユナ」なのだ。
しかし、しばらくたっても反応は全くない。
そう、これまでと全く同じように。
そこでルキは、クローゼットの前にある、ピンクのふかふかのキャスター付きソファーを、枕元まで押してきて、ちょこんと腰を下ろす。
前かがみになって覆い被さるように、美しく真っ白なゆななの顔を、すぐ近くから再びじっくり観察する。
そのまま、数分が経過する。
やがてルキは、意を決したようにソファーから立ち上がると、まず、カーディガンをそっと脱ぎ捨て、キャミワンピ姿になる。
さらに靴下も脱ぐ。
そして、ごそごそとゆななの眠るベッドに、もぐりこんだ。
それはニコプチ時代、アパホテル新宿御苑前の同じ部屋、同じベッドで仲良く眠った、撮影の前泊のように。
<ゴソゴソゴソ>
ルキは、まず布団の中に身体をなじませてから、仰向けに寝ているゆななの身体を、抱き枕に抱きつく要領で、真横から抱えるように腕を回す。
続いて、自身の右側の頬を、ゆななの真っ平らの胸に軽く押し当ててみる。
後は、そのまましばらくジーっとしている。
<ドクン・ドクン・ドクン>
たしかに生きている。
それを確認したくて、生存しているという事実を知りたくて、ゆななの心臓の鼓動の一音一音を聞き逃すまいと、耳を澄ませる。
耳を澄ませながら、ルキの目は穏やかに閉じられている。
と、その時。
閉じられたルキの瞳から、なんの予兆も無く、一粒の涙がポロっとこぼれ落ちた。
その涙は頬を伝い、下に落ちて、ピンクの花柄のシーツを濡らす。
それからまた一粒、一粒。
涙はとめどなく、次から次へと溢れ出てくる。
ふと、ルキは思う。
小学生でニコプチ、中学生でニコラ、高校生でセブンティーン。そして、おそらく大学生ではnon-no。いったい、いつまで私たちは一緒にいるのだろう。
このまま永遠に離れられないのではないか。
でも今回、自分には、セブンティーンではなく、ココハのようにポップティーンという選択だってあったのだ。実際、いま「popteen専属モデルオーディション2024」の募集が行われている。
もしくは、リミのように女優という選択だってあったのだ。『生田家の朝』以来、演技のお仕事は5年ほど一切やっていないが・・・。
とにかくゆななから離れる、という選択が。
やがて、とりとめなく考えを巡らせながらも何かを思い立ったように、ルキは、指先で頬の涙をぬぐうと、ベッドから身を起こし、もう一度、部屋の中を見渡す。
それから、改めてゆななの顔を見下ろす。
美しい寝顔。ホントにきれいだ。
このまま剥製にして、ガラスケースに収めて、インテリアとして自分の部屋に永遠に飾っておきたいくらい。
そこでルキは、ごく自然な感じで身をかがめると、隣で眠るゆななの唇に短くキスをしてみる。
そっと頭を上げ、反応を確かめるようにゆななの顔をしばらくの間、見下ろす。
やはり何の変化もない。
それを見届けると、再びキスをする。
今度は、もっと長く、もっと深く。
するとその瞬間、ルキは何だか自分自身とキスしてるみたい。
直観的にそう感じた。
「ゆなな」と「ルキ」。
見た目も性格も、身長も体型も色の白さも、服もメークも男子の好みも、みんなみんな正反対。
でも、まるで姉妹みたい。
むしろ、姉妹以上に通じ合っている私たち。
ようやく唇を離し頭をあげると、ルキはちょっと微笑み、そのままゆななの身体にぴったりくっついて、再び添い寝する。
ゆななと少しでも密着して、お互いの身体のぬくもりを伝え合おうとするように。
(ゆなな、還ってきて)
心の中でつぶやく。続いて口に出して。
「還ってきて、お願い」
目を閉じて、体の力を抜く。
すると、どこからともなく眠りがやってきて、ルキを包み込んだ。
いつのまにか窓の外では雪がやみ、朝日が登りはじめていた。
スポンサーリンク