その日リンは、とある場所にクルミを呼び出して、連れて行った。
リンとクルミとは、それぞれニコモになった経緯も年次も異なるが、ニコラ2018年10月号「ガールズルール写真集」の撮影でいっしょになった際、話してみたら意気投合。
おとなしくて控えめなリンと、お喋りで常ににぎやかなクルミとは、正反対に見えるが、なぜか気が合い、その場ですっかり仲良くなった。
そして今やリンは、クルミの趣味・嗜好について、もはや表向き彼女と1番の仲良しとされるコハルをこえ、最大の理解者となっていた。
そう。クルミは、アイドルのような外見&ひと一倍周囲に気を遣う優しい性格とはウラハラに、びっくりするくらい変わったもの、奇妙なものを好む女のコなのである。
ニコラの撮影の日、朝っぱらから、スマホでホラー動画の残酷シーンや、グロ系の残虐動画を、ひとり延々視聴してる姿は、ニコモやスタッフの間でもすっかり有名な話。
そして、そんなクルミにとって、「ニコモの死体」なんてものが、もしも目の前にあったなら、それはもう間違いなく彼女の最も見たい部類に入るに違いない。リンは確信していた。
だからこうして、クリスマスの日の深夜であるにもかかわらず、わざわざクルミの自宅に電話し(リンはLINEをやらない)、大阪から、リンの地元である名古屋の栄町駅まで、はるばる呼び出したのだ。
・・・・・
「リンちゃん、リンちゃん。こんな夜中に呼び出すなんて、なんやねん。どないしたん?」
会うなり、クルミが疑問を口にする。
「はい。おひさしぶりです。1月号の『TNM』ステージ2の撮影以来でしょうか?」
「せやな」
リンは直接疑問には答えず、簡単な挨拶だけをかわすと、クルミをそこから程近い繁華街、錦三丁目まで誘導する。
無言で歩く2人。
もともとリンが無口であることは分かっているので、普段おしゃべりなクルミもおとなしく黙っている。
ややあって、前を行くリンの足が止まり、密集するビルの間の奥まったところにある、汚いゴミ捨て場を指さした。
そこは、青いビニール袋が無造作に積み重ねられ、生ごみ特有のヒドイ悪臭が漂っている。
そして、問題の死体は、自然に、まるで眠るようにその場に横たわっていた。
「わぁ~、女の人や!」
クルミは、興奮を抑えるようにつぶやくと、死体に顔を近づける。
「でも、この人。眠ってるみたいや。ウチが起こしたろか?」
手を差し伸べようとするクルミを、リンは不敵な笑みを浮かべつつ制して。
「ふふふ。死んでる人間は、起こせません」
そう言われて初めて、目の前に横たわる女性が、実は死体であることに気づくクルミであった。
「首のところを、ご覧になってください。赤くこすれたような傷があります。おそらく、ロープか何かで、絞め殺されたのだと思われます」
「わぁ!殺人や☆ で、この人、いったい誰なん?」
リン、ここでちょっと考えるそぶりをみせつつ、きっぱりと答える。
「メークや服装、身長や年齢、顔立ちから見て、女優さんかファッション雑誌のモデルさんではないでしょうか? それもハーフでいらっしゃるようです」
ここでハッと、思い出したようにクルミ。
「あっ!!ウチ、この人のコト知っとるわ! うん、間違いない。実写版『賭ケグルイ』の生徒会長さんや~。この前、ちょうど映画観てん」
当然、芸能に疎いリンの反応はない。
「で、リンちゃん。どんなふうに発見したん?」
「はい、あのですね。塾の帰りに、のどが渇いてしまって、ちょっと飲み物でも買おうと、そこの自動販売機のところまで来たんです」
そう言うとリン、深夜でも、こうこうと輝く自販機を指差す。
「そうしましたら、このゴミ捨て場に横たわる、奇妙なものが目に付きまして。最初はマネキンか何かだと思ったんです。ほら、モデルならみなさん持ってらっしゃるトルソーみたいな。でも、近づいてよく見てみたら・・・本物でした」
ここまで喋り、黙り込むリン。その視線は死体に向けられている。
そこでクルミは、さらに質問を続ける。
「なんで、ウチを呼んだん?」
「クルミさん、こういうの、好きだと思って」
リンは、死体を見つめたまま答える。
すると、これまで無表情だったクルミの口元が、一瞬笑ったように、つり上がった。
おもむろに、死体の顔に自分の顔をピッタリ近づけ、凝視するクルミ。
「それにしても、キレイな人やわぁ~」
「はい、かなりの美人さんです。わたくし、テレビは見ないので、どなたかは存じ上げませんが、エキゾチックな顔立ちで、スタイルもよくて・・・」
「おっぱいもめっちゃ大っきい!! いくら身長あって、細くて、スタイル良くても、貧乳が基本のニコモには滅多にいないタイプや~!」
クルミが興奮気味に引き取る。
「はい」
リンは、ニコニコしながらうなずいている。
と、ここで、クルミが、思いもかけないことを言い出した。
「ウチ、これ、大阪まで持って帰るわ!!」
「は?」
基本、冷静で、何ごとにも動じることのないリンであるが、ここで珍しくうろたえる。
「ホンキやねん」
「あの、失礼ですが、持ってかえって、どうするんでしょうか?」
当然の疑問である。
これにクルミ。
「そりゃ、いっしょ暮らすねん。おうち帰ると、死体があるなんて素敵やん☆それも、こんな美しい」
クルミ、うっとりした表情で。
「でも、どうやって保存するのですか?」
「あのな、うちのお部屋にな、ミニ冷蔵庫があんねん。今年の夏、パパにおねだりして買うてもろたんや。まだまだ新品やで~」
「では、どうやってそこまで運ぶんですか? ここから大阪まで」
「それは・・・リンちゃん。あなたが―――」
・・・・・
リンは、走った。
ほど近い自分の家に着くと、すぐに押入れから、お仕事で東京に泊まるときに使う大きなスーツケースを引っぱり出す。
そして、再び外に出て、その華奢な身体にスーツケースを抱えると、いま来た道を急いで戻る。
なんだかワクワクする。これから死体を運ぶのだ。
そう考えると、まるで初めてのデートのように(実際、リンはまだ男の子と付き合ったことすらないのだが)心が弾み、自然と足も速まった。
やがて息を切らしつつ、クルミの待つゴミ捨て場に着いたリンは、一瞬、自分の目を疑った。
―――クルミがいない!?
≪ガサガサガサ≫
その場で呆然と立ちすくむリンの耳に、ふと、やや先にあるゴミ捨て場から、妙な音が聞こえてくる。
あわてて、ゴミ捨て場の奥まで見渡せるところに来てみると、そこでリンの足が止まった。
ゴミが詰まったいくつものビニール袋をベッドにして、女性と少女が並んで寝そべっている。
なんと、クルミは死体に添い寝し、両目を閉じたまま、右手で死者の頬をなでているのだ。
並んで眠る美しい姉妹たち。
こうしてみると、例えそこがゴミ捨て場であっても、なんともいえぬ神々しささえ、ただよっている。
一瞬、見惚れるリン。
しかし、すぐに気を取り直すと、こう言わずにはいられなかった。
「こらっ!」
この声に、いかにも邪魔されたといった感じで、めんどくさそうにクルミがうっすらと目を開く。
「ふわぁ~」
手を口もとにあて、伸びをしながら、大あくびするクルミ。
「起きなさいって!」
もはや怒る気も無くし、あきれるリン。
対してクルミは、いま目覚めたかのように、ぼんやりとした口調で。
「えへへ。死体といしょ寝るの、気持ちええ思わん?」
「あのですねぇ。人が通りかかったらどうする気ですか?」
さすがのリンも、たじたじである。
「でも、立ってたって、そりゃ見つかるときはどのみち見つかるもんや」
クルミ、妙に理屈っぽく。
「そういう問題じゃないです!」
そういうと、リン。
持ってきたスーツケースを開く。
「さっさと、これにつめましょう。クルミさんも手伝って下さい」
・・・・・
≪ゴロゴロゴロ≫
死体の入ったスーツケースを押すリンと、並んで歩くクルミ。
力仕事は、なぜかニコモいち華奢で、か弱いリンの担当であり、もちろんクルミは手ぶら。いもシス時代以来、根っからのお姫様気質なのである。
やがて街並みを抜け、橋が見えるころに来て、ふと、リンは寂しさのようなものにおそわれる。
それは、悲しみにも似た感情だった。
―――なぜ自分が、こんなことをしているのだろう? 真夜中に、会話も無く、最近知り合ったばかりのニコモと歩く。
それも、死体を運びながら。。。
≪ゴロゴロゴロ≫
しばらくの静寂の後、クルミが何か思いついたように、つぶやく。
「ええこと思いついた。死体は『エライザ』と名づけるで~」
「へっ? お名前を付けて差し上げるのですか?」
「せや。人格、与えたるんや」
こうしてクルミは、その死体に「エライザ」と名付け、末永く、エライザと暮らしたのであった。
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